君はプログレードデジタルというアッツアツのメモリーカード屋を知っているか? Vol.1
ユーザーフレンドリーな顔をしたサポートマンの正体は実はとんでもないデバイス屋だった
ペンタファン運営の一人、すしぱくが使っていたCFexpressカードに生じたトラブルをブログで公開したところ、メーカーであるプログレードデジタルより手厚いサポート対応を受けたことをきっかけに、プログレードデジタル日本法人の代表である大木さんにメモリーカードを取り巻くさまざまな状況についてインタビューをする機会を得ました。
早速インタビューの本編へと入りたいところですが、プログレードデジタルというメモリーカードメーカー、そして大木さんとは一体どんな人物なのかを簡単にご紹介したいと思います。
プログレードデジタルは、ストレージ界の生き字引ともいえるウェス・ブリュワー氏が率いるメモリーカードメーカーです。1978年にシュガートアソシエイツでキャリアをスタートして以来、記憶メディアに関わり続け、1997年からはサンディスク、レキサー(マイクロン)とフラッシュメモリの中心にいた人物です。その後レキサーを退職した後、2018年に立ち上げたのがプログレードデジタルです。
そして今回インタビューに応じていただいたのは、プログレードデジタルの日本法人代表の大木さんです。大木さんもウェス氏に負けず劣らずメモリーカードの表裏を知り尽くした人物で、ジャパンアズナンバーワンと日本製エレクロニクスが世界に覇権を謳歌していた時代にソニーでキャリアをスタートさせました。その後マイクロソフトでXBOX、サンディスク、レキサーでウェス氏とともにフラッシュメモリに携わりました。その後、プログレードデジタルで、主要なカメラメーカーが集う日本の法人代表を担っていると言えば、大木さんがメモリーカードのみならず、カメラ業界においても非常に重要な人物であることがわかります。
大木さんによれば「自分が納得できるサービスをしたい。自分自身プロの消費者だと思っているので、できうる限りのユーザーサポートをしていきたい。」とのこと。インタビューを進めるうちに、プログレードデジタルのみならず大木さんの内に秘めたパッションに、デジタルカメラ、ひいては写真を愛する全ての人が支えられているのではないだろうかという印象を持ちました。
ただのデバイス屋ではないプログレードデジタルと大木さん、そのとてつもない熱量をたっぷりとはらんだインタビュー本編をお楽しみください。
※以下、プログレードデジタルをPGDと表記します。
Vol.2、Vol.3はこちらのリンクよりご覧ください。
君はプログレードデジタルというアッツアツのメモリーカード屋を知っているか? Vol.2
君はプログレードデジタルというアッツアツのメモリーカード屋を知っているか? Vol.3
セールのお知らせ
2021年6月21〜22日に開催されるAmazon Prime DayでプログレードデジタルのCFexpress製品が 20%OFF、SD Cobalt製品が10%OFFとなるセールとなるそうです。この後に続くインタビュー本編でプログレードデジタルのメモリーカードに興味を持たれた方はぜひこの機会に手に取ってみてください。
熱量こそが、写真を、フォトグラファーを支えている
ペンタファン今回のインタビューに当たっては事前に大木さんのプロフィールやデジカメウォッチに掲載された記事をお知らせいただいたのですが、それらに目を通していくとテクニカルな話題の中に滲む徹底したフォトグラファー目線を感じました。例えばこれらの言葉です。
ウェスと私がマイクロンで注力したことの一つは、CFastとXQDの2つに分かれてしまったプロフェッショナル向けカード規格を、次世代で一本化することでした。もともと“小さな”イメージングの市場をさらに分割しても誰のメリットにもならないからです。 「世界共通価格・共通保証」を掲げるプログレードデジタル、いよいよ日本で本格展開
意識されない製品をつくり続けていく存在となっていきます 「世界共通価格・共通保証」を掲げるプログレードデジタル、いよいよ日本で本格展開
いずれもメーカーとしての存在感をアピールする一般的な方法論とは異なり、むしろ可能な限り黒子として振る舞う、フォトグラファーのストレスにならない様に配慮を重ねているように感じます。同時に写真に対してとてつもない熱意をお持ちのようにも感じました。この点について大木さんどうでしょうか。
大木さんウェスと私が共通して持っている認識がありまして。2011年以降SSDやスマートフォンが莫大な成長を遂げたことにより、メモリーカード業界がデジタルカメラ・ビデオ業界の優先順位を下げたというものです。 このような状況においてカメラメーカーも自身でメモリーカードを持っていないという状況で、ここをなんとかしないといけないという気持ちを持っていた中、私たちが所属していたマイクロンがレキサーを売却することを決めました。 これはまずい。このままフラッシュメモリー業界から私たちがいなくなったら、メモリーカードとカメラメーカーを繋ぐブリッジがなくなってしまう……と危機感を募らせました。その時ウェスは即座にPGDを起ち上げることを決め、私もそれに加わることになりました。
ペンタファン想像していたイメージ以上にドラマチックでした。お二人がその時に起ち上がらなければ、今日わたしたちにとってデジタルカメラはこれほど身近な存在でなかったかも知れません。
大木さんちょっと格好をつけたところもありますけどウェスはこれをビジネスチャンスと考えたようです(笑)サンディスクやマイクロンといった大きな企業にとってデジタルイメージング業界は小さいと見えても、我々ぐらいのサイズのベンチャー企業であれば十分に大きなマーケットだと。 一方で私は違っていて、コンシューマー向けのカメラメーカーはほぼすべて日本にあり、フラッシュメモリメーカーとカメラメーカーのコミュニケーションのためには日本にオフィスが必要だと考えていました。そのためにマイクロンを退職したあと、いくつものカメラメーカーに対してフラッシュメモリの置かれた危機的な状況を伝える活動をしていました。この時に最初からPGDの看板を背負ってしまうとセールスに来たのかと身構えられてしまうので、1年ほどはフリーの立場で行動してからPGDに参加しました。 個人的な想いなんですけど、デジタルカメラは日本のインダストリーとして最後のナンバーワンだと考えているので、メモリーカードで足を引っ張るようなことをしたくないんですよ。
ペンタファン淡々と大木さんは語られているんですが、大木さんから伝わってくる熱量は少年漫画も真っ青になるぐらいの熱さです。仰るとおり、メモリーカードの進歩が止まってしまうとデジタルカメラもこれ以上のスピードや解像度を求められなくなってしまいます。大げさではなくウェスさん大木さんの活動によって世界中のフォトグラファーは支えられていると言っても過言ではないと感じます。
ハードの先に隠れたマインド
小さなカードには熱く深い想いが隠されている
別の角度から写真についてお聞きしてみたいと思います。
大木さん私はどうしてもデジタルデバイスって発想でカメラを見てしまうので、写真好きというよりカメラ好き、機械好きなんですけど、写真のもつ結果というのはすべて自分がつくったものですよね。ここに私は意味があると思っていて、アナログ的なものというか理屈を超えた結果にフォーカスしていかなければ「スマホでいいじゃん」となってしまいますよね。
ペンタファン仰るとおりだと思います。
私たちがペンタファンというPENTAXのカメラを中心にしたウェブメディアをやっている理由ですが、エンジニアが熱意を持って創り上げたハードウェア(カメラボディ・レンズ、それぞれの内部ユニットなど)・ソフトウェア(カスタムイメージやカメラのUI)が活かされず、Adobe PhotoshopやLightroomといったRAW現像ソフトで仕上げることが一般化してしまっている現状は寂しいことだなと感じたことがきっかけになっています。
これってカメラを作るプロたちが考える最良の写真を得るために最適化した道具がつかわれていないということなんですよね。PENTAXに限らず他のメーカーにも言えることではあるのですが、せっかくメーカーが用意した素晴らしい道具をもっと身近にできないか……例えば鉛筆を使って字や絵を描くぐらいの感覚・距離感を作れれば、写真そのものの話がもっとできる環境ができるんじゃないかと考えています。そのための仲間を増やしていきたいんです。
大木さんなるほど。デバイスと処理の話が出たので私の経験から感じる話をしてみたいと思います。エビデンスが取れていないので印象を多分に含んだ話になってしまうことを踏まえてください。
カメラってボディの中に専用のチップを積んでそれぞれ最適な色再現処理をしていますよね。これがWindowsやMac上で再現できないという話を聞いたことがあります。マイクロソフトにいた経験からこれは実感があって、(汎用PC上のOSである)Windows上でカメラと同じプラットフォームを再現するのが難しいんじゃないかと。
ペンタファンそのお話しは私たちの経験とも一致するところがあります。以前いくつかのメーカーのカメラと、それぞれのメーカーが用意している純正RAW現像ソフト、それらに加えてAdobe Lightroomで同じような設定値で書き出したところ、カメラ内で処理したもののトーンにPCで描き出したものが及びませんでした。(撮影条件により逆転することはあり、あくまで個人的な経験と傾向です)
これを踏まえて、カメラ内の処理でしっかりとイメージを追い込めるように道具に習熟すれば、現場でより被写体と対話する時間を持てるようになる、という想いでペンタファンを運営しているんです。
話が逸れてしまいましたので戻します。今回のインタビューに当たって事前に大木さんよりご紹介いただいた記事を読んだとき、PGDや大木さんに私たちが持っているのと似たマインドがあるのではないかと感じました。業界のキーパーソンに対して大変恐縮なんですが(笑)
大木さんそうですね。メーカーの方々と話すと「この機能をもっとアピールすれば良いのに?」と感じることがあります。デジタルカメラ業界において日本のメーカーが覇権を握っているにもかかわらずです。それはなぜかというと彼らは(自分たちの)技術を知りすぎていることで、他社の良い面ばかりに目が行ってしまうということや、自社の当たり前が他社やユーザーの当たり前ではないということに気がついてないからなんだと思うんです。
例えばあるメーカーではRAWの形式がユーザーのニーズに合わせてさまざまに選べるといったことも、一件些細な話に思えるかも知れないんですが十分に誇っていいことなのに自らあまり語らない。そんな状況があるのでペンタファンのような応援団ってとても重要なんですよ。
ペンタファンそう仰っていただけるととても励みになります。
大木さんそれこそPENTAXのJPEGってすごいんだぞ!とか、あとでRAWを触らなくてもパッとプリントして良い画が出てきちゃったというのを伝えていきたいというマインドは理解できます。周りの人がいっぱい言ってあげる必要があると思います。乾いたデジタル屋としての意見なんですが、写真で表現される情緒というのは安定した技術の上にあると思っているんです。
ペンタファンそのひとことで大木さんにお話しを聞けて良かったです。「意識されない製品を作り続ける」という言葉の意味がよく分かりました。小さなカードにこれほどの想いが詰まっていると思うと、メモリーカードの扱いにもこれまで以上に注意を払いたいという意識が強くなりました。
まだまだインタビューは序盤。場が温まってきたところですがVol.1はここまで。Vol.2ではデュアルスロットやなぜAmazonだけで販売しているかなど、さらに深いメモリーカードの話に迫ります。お楽しみに!
取材協力:プログレードデジタル