カメラを脇に、山に散る「跡」をひろいあるく
たまにはカメラをオフに
カメラなんて置いていけなんて過激なことを言うつもりはないですが、たまにはオフ(気持ちの上で)にして山にちりばめられた様々な「あと(痕または跡)」をひろいあるいてみませんか?
特に冬から春へと移り変わるタイミングの低山は、冬枯れで見通しがよく森が明るく、風に乗って芽吹いた花々の香りが気持ちいいですし、「撮れ高」なんて気にせず双眼鏡を片手に動植物の気配を観察することでデバイス(機材)じゃなく自分自身の「解像度」が上げてみようか……なんてね。
とにかく写真は二の次に、じっくりと春の気配を観察しながら山を歩いてみると見つけられる「あと」を追いかけてみることにしましょう。
双眼鏡(PENTAX タンクロー)
さて、本題に移る前にすこしだけ寄り道を。今回の山歩きに持って行ったのはPENTAXのタンクロー 8x21 UCF Rというポロプリズム式の双眼鏡です。野鳥の観察にちょうどいい8倍という倍率と明るい視野、軽量なボディが揃ったまさにアウトドアアクティビティにちょうどいいモデルです。実売も4,000~6,000円程度とリーズナブルなのもありがたいですね。
ちなみに付属のストラップは長さの調節ができない方持ちタイプなのでPeak DesignのLeashなど使いやすいストラップに替えたり、キーリールやカラビナなどでザックにぶら下げると邪魔にならず、使いたい時にサッと使えます。
低山の良さは登山口までのアプローチにも
登山に来たんだからさっさと山に入りたい。……わかります。とてもわかる。
けれど少し待って欲しい。低山というのは人里に近い場所に多く、人界と野生の汽水域のようなゾーンです。山(森)へ続く斜面にある果樹園には野鳥が囀っていたりもするわけで、ウォームアップにもってこいです。
今回のロケーションに選んだ埼玉県皆野町の破風山はまさにそんな場所であちこちからウグイスの「ホーホケキョ」と囀る声が聞こえてきます。ウグイスは特徴的な鳴き声から知らない人はいないと思われるほどに有名な鳥ですが、藪の中で暮らすため実はなかなかその姿を見られません。ちなみに梅や桜の花をついばみにやってくるうぐいす色の小鳥はだいたいメジロです。ややこしいですね……
アピールの強い鳴き声のわりに見つけにくいウグイスも、つづら折りに続く果樹園の擁壁あたりを注意深く見ていると、ときおり姿を見せてくれることがあります。
いつになったら山に入るんだという声が聞こえてきそうな前置きの長さになってきましたけれど、周囲を観察しながらあるくと単調になりがちなアスファルトのアプローチも低山ならではの楽しさに思えてきませんか?
いきものの痕跡をひろいあるく
春の山は花やその香りに意識がひっぱられがちですが、地面や木の幹に目を移すとなにげなく通り過ぎていた場所でもいろいろな痕跡があることに気がつきます。
道のどまんなかにこんもりと積もっていたので目を移すまでもないですよね……これはたぬきのため糞と言われるもの。他にも登山道沿いを観察してみると石の上や茂みのそばにいろいろな形の糞が落ちています。あまり気は進まないかも知れませんが、写真に撮っておいて帰ってから調べてみるとその周囲にどんな動物がいたのか知ることができますし、同時にその山がどんな成り立ちをしているかを知る糸口にもなります。つまり観察の解像度が上がる。
糞の話ばかりしていても匂ってきそうなので少し目線を上げてみます。木の幹をよく見るとポツポツと穴があいています。これはコゲラ(キツツキ)がつついた「あと」。周囲の音に気をつけていると「ココココココッ」という音が聞こえてくるはずです。
これは別の山で撮影したコゲラ。今回の山行ではボウズでした。
音の聞こえてくる方の樹上で、風とは違う枝の揺れを探すと木をつついてエサをとっている姿を見られます。
写真をわきに置くことで写真の奥行を考える
いかがでしたか?
率直なところ、今回の話は自省の意味もふくんだものでした。デジタルカメラという道具を使う以上、ついついデバイス側の解像度だったり、構図やコンセプトといった自意識へのしがらみにとらわれがちです。
そんな時はいったん写真やカメラのことはわきにおいて自分自身の自然に対する「解像度」を見直してみるのもいい機会なのかもしれません。